2010-12-20

「死んでいる」/ジム・クレイス "Being Dead"/Jim Crace

何となくタイトルに魅かれて手にとってみた。

動物学者の夫婦が迎える突然の死から始まり、遺体が腐敗していく様子や夫婦の娘が両親の死を迎えるまで、夫婦の出会いからのエピソードなど、時間軸が行ったり来たりしながら、物語は進んでいきます。

中盤あたりで少しつまらないかもって思ったんだけど(何かとクドい言い回しや、あまり頭に情景が描けない丁寧なのかよくわからない描写)、そこからラストまで一気に読み進めていくと、清清しい気持ちになるような、静かな感動があった。作者のジム・クレイスは無神論者で、同じく無神論者の父を亡くした時の喪失感(お葬式など宗教による儀式はなし、ただ火葬するだけ)を覚えたという経験を基にこの作品を書いたそうです。宗教が彩る、死への(そして生への)ドラマチックな装飾を一切なくし、自然の営みとしての死というものがどういうものなのかを見事に描いていると思った。

夫婦は、死んでから誰にも発見されぬまま、数日を過ごします。あらゆる変化を経て、腐敗が進み、あらゆる生き物がやって来ては、卵を産んだりそれが孵化したり食べたり、します。雨が服を濡らし遺体を洗います。下敷きとなった草たちは太陽の光を取り戻した後に、再びたくましく成長します。死も生も繋がっていて、それは今までもこれからもずっと続く普遍的な生命の連なりなのだな、と思った。死ぬということは絶望でも何でもなく、自然の摂理なのだということを、改めて感じる。

こういう死への見方もあるのか、と清清しい気持ちになったけど、作者はきっと父に限らず様々な死を見つめて見つめて、見つめ倒して、この境地へと至ったのかもしれない。それは、悲しんでむせび泣くよりも過酷なのかもしれないと思った。

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